当院外来リハビリに通われているピアノの先生から、音楽教室のピアノ演奏発表会のパンフレットをいただきました。その中で、生徒さんたちに向けたメッセージがとても素敵で、感銘を受けたのでご紹介させていただきます。(ご本人の同意をいただいています。)

 

「成長のチャンス」

今年6月、私は驚くような体験をした。今でも、その出来事を思い出すと幸せな気持ちになる。

私は左半身に麻痺があり、3年前から上伊那生協病院にお世話になっている。この病院には、リハビリ界の世界的権威 大槻利夫先生が常任されており、若いセラピストの皆さんが常に切磋琢磨し、ハイレベルなリハビリを提供している。不調の時、私はこの施術に何度救われたことか!

初めて知る真のリハビリテーションの世界。驚くことに、そこには音楽との共通点がいくつもあった。

✿脱力の大切さ ✿集中して全身でトライ ✿繊細な動きのコントロール ✿良い練習をすること・・・etc.

私は、倒れて以来右手だけでレッスンを行なっているが、これまで困ったことがない。大槻先生に施術していただいた5月のある日、何気なくそんなお話をすると、先生が「左手の回復はないね。人は困らないと成長しない」とおっしゃった。「え?回復がない??」その強烈な言葉に一瞬戸惑ったが、すぐに腑に落ちた。

そうだ。私はセルヴァンスキー先生に師事した20年間、ずーっと困ってきた。だから成長できたんだ! ‘しばらく休んでいたピアノの練習を始めよう‘ そう決意すると、今度はロンドンに住む先生からメールが届いた。今の私にふさわしいテキストを教えてくれたのだ。それは、ハンガリーの作曲家バルトークのピアノ入門書だった。何というタイミング。

メールには、こんなメッセージが  —私たちは長い間一緒に学んできました。素晴らしい音楽の意味を理解しているあなたなら、これらの作品の美しさがきっとわかると確信しています—

6月、久しぶりにワクワクしながらテキストを注文し、YouTubeで演奏動画を観た。ところが、美しい作品どころか私には単調でつまらない音楽にしか聞こえてこない・・・

数日後テキストが届き、全音符・2分音符・4分音符が連なる曲をゆっくり弾いてみた。すると、5曲目を過ぎた時のこと。突然、もの凄い衝撃に襲われた。バルトークの音楽が私の魂を揺さぶったのだ!!一瞬にして光に包まれたような感覚。体がふわふわし、自然と笑みがこぼれる。そんな状態が1週間ほど続いた。体験したことのない感動だった。

長年に渡るセルヴァンスキー先生のご指導と、大槻先生の愛情ある言葉で、私は音楽の真髄に触れその深さを知った。2人の偉大な先生方に出逢えたこと、ご指導いただけたこと、感謝しかない。

これからも『困る=成長のチャンス』と捉え、一歩一歩、歩んでいきたい。