療養病棟では緩やかながら回復につながり、生活の場に戻られる方もいますが、多くの方は病院生活が長期化しています。

そんな中、リハビリテーションでは何をしたら良いのかを考える機会が少なくないです。特に、寝たきりの患者さんとの関わりでは、関節が硬くならないような機能維持、車椅子への移乗で出来るだけ体を起こし、心肺機能の維持向上や座る練習へ移行するなどを行いますが、年単位での関わりでは漫然としてしまう事があります。

 

そんな時、私はAさんと出会い、口述筆記という関わりを通して、自身の戦争体験を後世に残せるような本の執筆へと至りました。

 

私がAさんと出会ったのは、約4年半前。

 

出会った当時は、酸素チューブをつけ、点滴栄養、食事も口から食べられない状態で、寝たきりでした。

 

全身の倦怠感も強く、会話も長時間は難しい様子でした。

 

そこから、懸命なリハビリを行い、少しずつ回復へと向かって行きました。

 

食事は1食のみ口から食べられるようにはなりましたが、全身の筋力低下が強く、なかなか今までのように起きて過ごしたり、歩くことは難しい状態でした。

 

Aさんは90歳を超えており、超高齢者。

 

回復はしてきたとは言うものの、早くあっちへ行きたいと話す事も少なくなかったです。

 

そんなAさんは、ほとんど寝たきり状態ではありましたが、記憶は非常に鮮明で、今での生活の事や家族の事をはっきりとした言葉で話してくれました。

 

その中でAさんは、満蒙開拓団の一員として満洲に渡って過ごした日々のことを昨日の事かのように話してくれました。

 

「これはしっかり文章に残して残しましょう!」

 

そんな提案をした所、最初は渋々でしたが、徐々に一緒に行う事が出来ました。

 

口述筆記という形で、Aさんには当時のことをとにかく話してもらい、それをセラピストが筆記。そして、それをさらにパソコンへ打ち込み、Aさんのもとへ。

 

「ここはこういう事じゃなくて…」

 

修正しては確認、修正しては確認を繰り返しました。

 

生まれてから、小学生で満州へいき、日本へ帰ってきた約4年間の生活の日々を形に残すという事ができました。

 

それから、Aさんのご家族も熱心に動いて下さり、写真のような、1冊の本にする事が出来ました。

 

作業療法士として、患者さんと何が出来るかを考えると非常に悩ましい維持期リハビリですが、今回のような口述筆記は、特に超高齢者の場合、家族や若い世代へ歴史を残せる貴重な作業であると感じました。

 

 

文章はAさんと作業療法士が一緒に書き、絵は当時の情景が浮かぶようにご家族様が描いてくれました。個人情報でここでは出せませんが、当時の「引揚證明書」も載せてくれました。

 

※掲載に関して、本人ならびにご家族様へ承諾を得ています。